2022年4月のITストラテジスト試験(以下、ST試験)に無事合格になったので、本記事では試験対策などの振り返りを行います。
対策と所感
事前勉強
まず私はこれまで経営戦略についてほとんど考えたことがない状態だったので、その辺の基本知識を知ること、考えてみることから始めました。
とは言え、未経験者がなにもないところから考えるというのも難しいので、「この1冊ですべてわかる経営戦略の基本」という書籍をとっかかりにしました。
こちらの書籍は実務レベルの具体的な話はあまり出てきませんが、初学者が「経営戦略」に関心を持つにはほどよい分量と内容になっておりとっかかりとしてはかなり良本だったと思っています。
ST試験の内容的には前半部分はある程度しっかり読んでイメージをつけ、後半は流し読みでも可かなと思います。もちろんしっかり読んで無駄ということはないと思いますが。
ちなみに書籍の前半部分には情報処理技術者試験の午前問題でおなじみ(?)のフレームワークがでてきます。今まで言葉としてしか認識していませんでしたがちゃんと知ると意外と使ってみたくなりました。
フレームワークはST試験的には、午後Ⅱの論文中にツールとして活用したことを記述するパターンもほとんどなかったと思います。なので、今まで通り午前が通過できるようにおさえておけば最低限問題ないはずです。ただ、論文のネタ抽出や整理に使用するのはありだと思います。詳しくは午後Ⅱのところで記述します。
午前Ⅰ
一応項は設けてますが、免除だったので対策はしていません。
応用情報以上の対策と同じ感じで問題ないと思います。
午前Ⅱ
基本的には過去問をしっかりやりこんでおけばそれなりの安全圏まではいけると思います。
今回の私も基本的には過去問演習のみで対策としました。
ただ、今回の令和4年度試験においては、過去問の流用問題だけでは合格点には至らないパターンでした。
確実に合格するためには最新のIT動向やマーケティング、経営戦略に関する知識など幅広くもっておく必要があります。こうなると確実に通過するための対策の難易度がグッと上がります。
真っ当にいくならシラバスを確認して、そこからある程度の範囲を絞って新しい知識をいれていくなどもありますが、それでも結構大変です。インダストリー4.0などの用語が記載されていれば現実的に対策ができそうですが、そうはなっていません。
・「ITストラテジスト試験(レベル4)」シラバス(Ver.4.0)
https://www.jitec.ipa.go.jp/1_13download/syllabus_st_ver4_0.pdf
かなり不安を煽るような書き方をしましたが、過去問を押さえておけば10問分ぐらいは確実にとれるので現状の形式ではそう簡単には落ちることはないと思います。
個人的な経験から言うと、ST試験と関係なく最新のIT動向、マーケティングなどを勉強する機会があればそのときに試験対策になると思って用語とイメージをしっかりと結び付けておけばそれなりに対策になったと思いました。
午後Ⅰ
午後Ⅰに関しては毎度ながら特別な対策は行っていません。逆に言うと過去問演習を中心とした対策以外の対策が難しいとも言えます。
午後Ⅰの論述問題に自信があれば、過去問を解きながらST試験の特徴を捉えて、視点をITストラテジストに寄せるようにチューニングしていけばいいと思います。
苦手意識がある場合は、書籍やちゃんとした講師の方が推奨するやり方を参考にするのもありだと思います。
ここでは一般的に言われているものもありますが、私が捉えたST試験午後Ⅰの特徴を記述していきます。
- ビジネスを中心とした文章題
午後Ⅰの問題多くは「ビジネス」を中心に展開されます。システムももちろん出てきますがビジネス課題解決の手段の一つとして登場するようなパターンが結構多いです。
なので、設問と回答をセットとしたとき、設問にも回答にもシステムがかすらない設問も普通にあります。設問に回答する際にはビジネス視点からも考えることは重要になります。
- 設問で問われる箇所は広範囲
設問では本文中の中盤から後半にかけてまんべんなく問われる問題が多かったです。
また、設問に対する回答の元となる本文の記述が設問箇所より後ろに出てくるケースというのが毎回ではないにしてもまぁありました。このケースに当たったときから本文を頭からよみぶち当たった設問に回答していくというスタイルから、本文を最初に軽く流し読み終えてからそれぞれの設問に回答していくというスタイルにチェンジしました。
- 設問は抜粋で回答できるものが多い
設問的な特徴としては、本文を抜粋しまとめて回答するような問題が多いです。
もちろん例外はありますが、自分の知識から推測回答するというよりは、本文中に書かれた事実を整理して回答するというのが基本になります。
ちなみに、私も活用した翔泳社の参考書「情報処理教科書 ITストラテジスト」は、他の試験区分のものより詳細に午後Ⅰの解き方が解説されています。
もちろん好みもあったり、ST試験だと既に他の区分に合格したりしていて自分なりの方法を持っている方も多いと思いますが、午後Ⅰに苦手意識がある場合などは参考にしてみるのも一着だと思います。
午後Ⅱ
午後Ⅱは対策は少しちゃんと書いてみたいので、項を分けました。
他の論文区分での合格があるがITストラテジストとしての業務経験はない目線になっています。
また、組み込み系の問題は選択肢から予め除外しています。
ネタ作り
他の論文と同様にネタ作り(ネタ集め)は必須級の対策だと思っています。
テッパンの流れを作っておくと、本番試験で使えたときに安定するのと、私の場合はそもそも論文を書く練習の段階で、ある程度流れを用意しておかないと練習もはかどりませんでした。
ここでは私が実際に行ったネタ作りの方法を紹介しておきます。
ST試験では大きく以下のような流れを用意しました。考える際には実際の業務で関わりがあった業界などの業界固定で考えた方がいいと思います。
例文として記載しているのは、「ST試験令和4年問3」を参考に今作成したものなので、実際そうなのか、うまくいくのかは知りませんがイメージとして。
①世の中の動向
⇒消費者の購買チャネルが大きく変化してきている
②市場への影響
⇒これまで通りの店舗販売のみでは現状の売上を維持できず、各社が新たな販売チャネルの開拓を進めている
③当社への影響(現状)
⇒ECサイトを立ち上げ、地域の特産を前面に押し出した店舗ごとEC産直コーナーを設置したが、店舗によるバラつきが大きい。
④経営目標(事業目標)
⇒売上のさらなる拡大を図るため、店舗ごとのEC産直コーナーの売上を店舗平均XXX百万からYYY百万とする
⑤経営戦略(事業戦略)
⇒売上が高い店舗のノウハウ・成功事例を共有し学べる環境を作る
⑥解決策となるシステム、IT技術
⇒動画配信によるラーニングシステムの導入
論文試験の問題によっては記述が求められない部分もあると思いますが、私のようにこれまで最上流について考える機会がなく、聞かれてもすぐには検討もつかないような場合には事前に考えておくと安心できると思います。
後はST試験の場合には、より「上流」の部分ほど流用がききやすいと思ってます。
自身の経験や知識次第でどこを起点にしてもよいと思います。
実際にモデルとしている企業の経営目標から、その目標を立てた背景を考え上流に上る、目標を達成するために必要なことを考え下流に下る。
担当しているシステムの背景を考え上流に上る。
私も実際にやりましたが、どこから考えればいいか分からない場合にはPEST分析などのフレームワークを使い最上流から考えることも有効です。
考えるとは書きましたが、考えきれない場合には普通に検索も使用しました。モデル企業のHPに書かれている経営計画などの他に、競合他社のHPなどは非常に参考になります。
今まで真剣に考えたことがなかった場合には実業務とのリンク性を考えてもおすすめです。
その他、細かい部分も用意できるならしてもよいと思いますが、私は実際に演習しながら我ながら良いことが書けた部分をストックしたり、考えが浅かった部分や上記の流れに違和感を感じた場合には再調査・再検討を行いました。
イメージ的には以下のような流れです。
パーツ(収集)⇒組み立て(論文)⇒パーツ(分解・追加修正)⇒繰り返し
設問アについて
私の経験から言うと、ST試験の設問アは重要度が高いです。他の試験区分にも言えることかもしれませんが、設問イや設問ウの内容は設問アの内容ありきです。
そして慣れていないと書くのが大変です。考えながら書くと設問アの部分を書き切るだけでもかなり時間がかかることがありました。
最初のころは書けなすぎてこれはマズいと思い、上記の「ネタ」はほぼ設問アにフォーカスしています。
結果論なので参考程度にですが、合格・不合格にも直結してくる部分だと思います。
設問アでは一見すると似たような用語が多く出てきます。
特に意識しなくても合格は可能かもしれませんが、早いうちに自分なりに定義しておくと後から混乱するようなことを防げると思います。
ここに記しているのはあくまで勉強中に私が捉えた定義なので、自分なりに確認して定義し直すことが推奨です。
経営目標、経営戦略について
本文や設問アには経営目標や経営戦略といった言葉がよく出てきます。なんとなくは分かっても曖昧な感じがする場合には確認しておいた方が、論述やネタ作りの際にも迷うことがなくなるでしょう。
前提としては経営戦略は経営目標に対する打ち手になります。後先で言うと目標があっての戦略です。
◯ST試験令和元年午後Ⅰ問2より
- 経営目標:業績の伸び悩みからくる収益増加
- 経営戦略:ITを導入した新たな医療保険の導入
また、似た言葉に「事業」戦略や「事業」目標という言葉もあります。というより試験問題的には「事業」の方が良く出ていたかもしれません。
ここでの事業は一般的な意味合いと変わらないはずです。
例えばヤフー株式会社であれば。
イーコマース事業
会員サービス事業
インターネット上の広告事業 など
経営戦略などが全社的であるのに対して、事業ごとの目標や戦略が事業戦略や事業目標になってくるということです。
午後Ⅱの問題中には、経営と事業の言葉が同時に出てくることは基本的にはなかったはずなので、あまり意識しなくても問題ないと言えば問題ないですが、理解しているに越したことはないと思います。
事業概要、事業特性、事業環境
参考にした合格論文でもややバラつきがある気がしましたが、これらの言葉は私の中では以下のように定義して論述するようにしました。- 事業概要
当社が行っている事業について
- 事業環境
対象業界の現在の流れ→それを受けての当社も一言添えてもよい
- 事業特性
事業環境の中での当社の特徴→それによって発生する課題→システムで解決するに繋げる
設問アは誰が考える?
もちろん自分が考えるのですが、論文中の話です。設問アの内容は基本的には前提としてある状況と経営層が考えた目標や戦略として論述しました。
問アの終盤や問イの頭にITストラテジストである私に命じられるという流れにすることが多かったです。
多くの参考論文はこの形はとっており、実際にITストラテジストとして業務を行ったことがない場合にはこの流れにするのが無難だと思います。
設問イについて
設問イについてはここであまり書くことがありません。
設問イは、論文のテーマによって論述する内容が大きく変わってくるので、予めネタのストックを用意するというよりは論文のテーマに合わせてその場で考えたり、練習でうまく書けたものをストックしていくことが多かったです。
設問イに関しては論述内容が業務レベル、システムレベルまで落ちてくることが多かったので、設問アの方針に沿って業務やシステムの検討を記述するということで実際にITストラテジストの業務を行ったことがない場合でも比較的記述しやすいことが多いと思います。
完全にネタを用意して対応しようとすると、本番試験で用意したパターンにハマるの待ちになりそうです。
近年では論文のテーマも多様化してきて過去問で用意したネタをキレイに流用できるケースが減ってきていると思っており、個人的には頑張ってネタ作りで対応しきるというよりは、自力を上げるのが近道かと思います。自力を上げるにはどうしたらいいんだという話ですが、真っ当に業務経験を積むか論文練習をするかしか思いつかないですね。。
設問ウについて
設問ウの王道パターンは経営層への説明・提案とその際に指摘を受けての改善を考えることです。
直接的に経営層が出てくるのは他の試験区分にはあまりない特徴です。
経営層への報告の仕方などのイメージがつかない場合には、基本的には書籍の合格論文などを参考にして書き方を学べばよいと思います。
私が重視したところを挙げるとすれば、設問アの(経営層が考えた)事業戦略や目標を意識していることを明示的に示すような書き方をしたことでしょうか。
経営層からの指摘については少し考える必要があると思っています。
最後の最後でどこまで評価に響くのかは分かりませんが、あまり自分の提案を落とすような指摘を経営層にさせるべきではないはずです。
問イの論述中に「スキ」を埋め込んでおくというよりは、観点を変えた「+α」となるような指摘を考えた方がよいと思います。
この辺も合格論文を参考にしたり、練習中にストックしておきたいところです。
とは言え、テーマが変わると本番試験中に用意したものが使えないということも普通に起こりうることになるので、私の本番試験ではその場で考えたごり押し気味の内容になってしまいました。
どのような観点での指摘をすべきかという点は、試験以外のことを考えても自分にストックしておいても腐らないと思います。
その他
設問イから書き始める
今回使用した翔泳社の参考書「情報処理教科書 ITストラテジスト」の午後Ⅱの対策の中に「設問イから書き始める」というものがありました。これは設問アの記述を設問イウと整合性が取れた内容にするためのものだと思われます。
私も実際に他の区分の本番試験などでは、設問アに書いた内容を設問イウで回収できず、アに無駄なことを書いてしまったという経験があります。
このため、設問アの抜け漏れ過剰を防ぐためにということであれば論理的には納得できました。
微妙な表現をしているのは、私は普通にアイウの順で記述を行ったからです。
論理的には納得できたものの、試そうとしたらいまいち私はやりにくかったです。恐らくこれまでの試験も設問アから普通に書いていたのでそちらに慣れきってしまったということと、良くも悪くも設問イやウの論文設計が甘いところがありその分設問アの内容を受けてイウの内容を膨らませたりしながら書くという癖があるからだと思います。
結局のところ合う合わないだと思います。
これまで論文試験の経験があまりない場合や合格までに苦労している場合などは、納得した上で試してみて自分に合えば採用してみるのはアリかと。
質問票について
質問票に関してはどの試験区分でも微妙な疑問が出てきたけど、参考書などにはいまいち触れられていないなんてことが起こりやすいところだと思っています。ST試験においては、工数やコストなどをITストラテジストが主体で行う「企画」部分だけなのか、システム開発も含めたものにするのかという疑問が浮かびました。
この疑問に関しては恐らくどちらでもよい。のだと思います。
私の本番試験では、いわゆる「企画」部分にあたるものだけを記述しました。
不安なら質問票の総工数や総額の欄に「企画における工数」などの補足書きをしましょう。私は本番試験でもそのようにしたはずです。
質問票については以下のブログ記事を参考にさせていただきました。大変ありがたい。
【質問】個別システム以外の場合、質問書は「空白」でいいの? | ITコンサルタントが語る わかりやすい情報処理技術者講座
外資経営コンサルが綴る実践的ITストラテジスト攻略法|すんちゃん|note
今考えると、企画や策定部分のみで書くのが基本な気もしてきました。
最低限意識すべきはタイトルにあたる「名称」で、企画部分だけなら「~の導入企画」や「~の計画策定」など、全体を表したいなら「~システム開発」や「~サービス導入」などその質問票や論文がどの範囲について記述しているのかというのを明示的に示してあげると良いのではないかと思います。
書籍
試験のために購入した書籍たち。
情報処理教科書 ITストラテジスト 2022~2023年版
用語や基本事項の解説や午前試験の対策を排除し、午後Ⅰ、午後Ⅱの対策解説に特化した参考書になります。
用語の解説はなんとも言えないところはありますが、午前を排除しているのは高度区分の参考書としてはあるべき姿かなと個人的には思います。
排除した分、午後の対策や解説などのはかなりしっかりと書かれています。
方法論などは良し悪しが人にはよるところもありますが、見てみる価値はあるものだと思います。
好き嫌いが結構分かれそうなので、中身を把握してから購入した方がよいかもです。
ITストラテジスト 合格論文の書き方・事例集 第5版 合格論文シリーズ
参考にする論文を増やすために購入。
論文をどのように書けばいいか分からない場合には、単純に参考論文が増えるので午後Ⅱ対策としては無難と思われる。
この1冊ですべてわかる 経営戦略の基本
これまでエンジニア業務に従事し続けて、経営などについてあまり考える機会がなかった場合などにはおすすめできる本。
試験対策的には、細部までしっかり読み込むというよりは、イメージを掴んで関心が持てるようになるようにさーっと読むぐらいでいいと思っています。
午後Ⅱの特に設問アの部分を考えるときに、どう考えればいいか?という辞書的な使い方もしました。
結構昔の本なので、中古が見つかれば中古でもよいと思います。